森山大道を知らないカメラマンはいない
森山大道(もりやまだいどう)は1938年10月10日生まれ 大阪府池田市出身の日本を代表する写真家である。 「アレ・ブレ・ボケ」と形容される独特の作風は海外でも高く評価されている。自称「街頭スナップ写真家」。写真家がカメラ関連以外を除いてテレビや雑誌の表舞台に立つことはほとんどないから、私はカメラに興味を持つまでは全く知らない人だった。
この人の写真は好き嫌いがはっきり分かれるらしい。権威的で嫌いだとか、この写真の良さがさっぱり分からないといった意見もある。一方で、森山大道ファンはモノクロのピンぼけ写真やブレた写真にカッコよさを求めており、森山大道の生き方へ写真を通じたリスペクトを感じている。歌舞伎町を題材にすることが多いからか、男の人に人気がありそうな写真が多い気がする。
森山大道と学生の対談式のカメラ議論
さて、話を本書に戻すと、写真を学ぶ学生と森山大道の対話を本にしたのが本書『昼の学校 夜の学校』である。講義録という形をとっているのが特徴で、写真集ではない。この本は森山大道の入門書としてオススメされている。私は写真家はあくまでも写真で語るべきであって、言葉にした写真論にあまり興味は抱かないのだけれど、本書はオヤジとコドモの対話が何とも面白かったので買い求めた。
森山大道の凝縮された写真論は、重みがある
彼の写真論とはこの言葉に凝縮されているのではなかろうか。
要は、時間を止め、光を写し、出来事を記録すること
また、写真への態度を示す部分では
ずっとコンパクトカメラを使ってるけど、でもそれがなくても、撮りたくなったら、どんなカメラでもいいから目のまえにあるカメラで撮ります、たとえそれが「写ルンです」でもポラロイドでも大型カメラでもこれでなくてはなんてことはまったくないです
僕のスナップ写真に対する考え方の一つとして、「量のない質はない」というのがあります
小手先の美学や観念で作られた写真なんて量が一蹴します
写真の意味やテーマを考えるのは誰かに任せて、本人はただ撮影しかできないオヤジだと言い放つものの、言葉の節々から滲み出る写真への姿勢と一貫性は圧巻である。写真を撮るという行為を研ぎ澄ますと、森山大道のようなピュアな写真家になってくるのだろうと思った。
カメラのあれこれ、構図のあれこれ、テーマのあれこれは最後に考えることであって、まずは何よりシャッターを押せというシンプルで重厚なメッセージは今後何年経とうとも色褪せない言葉だ。このあたりに森山大道ファンはシビれるんじゃないだろうか。飾り付けのないゴツゴツした感じの写真、それはモノクロでスナップ撮影してると出来上がりやすい。そして、これは何やら森山大道ライクな写真になのではと錯覚さえ起こす。
写真とは何か?に森山大道は答えない
さて、また本書に話を戻す。この本のオモシロさは学生との対話というところ。学生だから気兼ねなしに本質的な質問を森山大道にぶつけてくる。例えば、「森山大道さんの写真が気持ち悪いんだけど」という強烈な批評や、「どうやって稼いでるのか?」「宇多田ヒカルの写真を撮ってときはどんな感じだったか?」といった生々しい話までマシンガンのように乱射してくる。それに対して森山大道は、学生だからといってナメた回答をしないし、甘やかすわけでもないし、大人の対応だけでもないし、距離感がおもしろい。
その距離感がよくあらわれている部分がこの一節。
学生「先生にとって写真とは何ですか?」
森山「また、そういう難しいことをいう。」
写真家であれば常套句のように聞かれるであろう質問に対して、この回答。きっと優しい人なんだろうなと思った。もともと写真てシンプルなものだったはず。それがいつしか構図が、カメラが、レンズが、被写体が、なんて深みにハマってるようで実は複雑に考えてるだけなんだな。もっとシンプルに写真と向き合っていきたいと思えた一冊。
そして森山大道も使っているRICOH GR。私も気づけばモノクロ設定にw