この画像の画面左をみて頂きたい。腕と袖あたりに何やら波打った画像が写り込んでいないだろうか。この正体は、写真の天敵といわれる「モアレ」或いは「モワレ」と呼ばれる現象である。
規則正しい編み目のような模様がある被写体を撮影した場合に、被写体本来の模様とは無関係な縞模様が現れる。ゴーストやフレアは写真の表現と言うこともあるが、このモアレは写真画像においてはあまり望まれる対象ではないため、防止する必要があると言われている。
規則正しい模様は自然界にはほとんど存在しない。人工物に限って現れるので、風景写真家にはあまり気にすることのないモアレ。この写真のように人物撮影や商品撮影には気をつけるべきモアレ。
防止策としては、
- 撮影被写体に対して少し角度を付けて撮影して軽減する方法
- ズーム倍率を変えたりして軽減する方法
- マニュアル撮影して、ほんのわずかにピントを甘くする方法
がある。これは撮影方法で軽減、低減する方法だが、カメラ自体でモアレを防ぐ事もできる。「ローパスフィルター」である。ローパスフィルターとはCCDやCMOSなどの撮像素子の前面に取り付けられているフィルターで、モアレを低減させる機能をもっている。私の知る限りではカメラに固定式なもので、ユーザーが取っ替え引っ替えできる代物ではない。
簡単にいうと、ローパスフィルターはセンサーに光があたる前に、画像をぼかす役割をしている。色の境目をなじませてしまうことでモアレの発生を防ぐ(ちなみに偽色も防ぐ)。
このローパスフィルターのおかげで、冒頭の画像にあるようなモアレはどんな撮影シーンにおいても低減できるようになっている。
このローパスフィルターが撮像素子の前面についている事を想像してもらえば分かるとおり、フィルターが存在している以上、画質に残念な影響を与える。ローパスフィルターがあると、解像度が落ちてぼんやりした画像になってしまうのだ。逆に言えば、モアレは多少の画質を犠牲にしてでも防止するべきと評価されている証拠であろう。このフィルターはカメラ外観からは見えないフィルターのため、意識することはないのだが、モアレと偽色は防ぐが画質と落とすというメリット・デメリットを合わせもった存在である。風景写真を撮る人にとって発生しづらいモアレを防ぐという名目で画質を低下させていたわけなので、取り除いて欲しいとの声は多かったと想像できる。
理想を言えばローパスフィルターをなくして、モアレを防止できるのが望ましい。
技術は常に進化するもので、ローパスフィルターレスモデルと呼ばれるカメラが業界では賑やかである。つまりモアレを防止するためのローパスフィルターを省いてしまおうという動きである。もうモアレは諦めて解像度だけ考えようという時代が訪れたわけではなく、モアレの発生をローパスフィルター以外で抑えようという動きなのだ。カメラの高画質化によってレンズの解像度を超え、そしてカメラ内の画像処理エンジンの進歩によってローパスフィルターに頼らずして、モアレと偽色を防止できるようになった。
文字通りあえてローパスフィルターを排除したローパスフィルターレスモデルは、レンズ交換型カメラを中心にムーブメントになっている。例えば、ニコンD800EやD810、富士フィルムでは中級機のFUJIFILM XQ1でもローパスフィルターを排除している。
今後の流れとして、ローパスフィルターレスモデルは一般化してくると考えられる。高画質追求とモアレ防止のトレードオフだった関係が崩れ、高画質かつモアレ防止を両立する技術を手に入れたメーカーが、わざわざローパスフィルターを差し込んでくるとは思えない。